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Dusk 第2章

2016/2/18更新
1.

 爆発的な歓声がライブステージに反響した。
 現れたのは染め抜かれた長い金髪をなびかせ、エキゾチックなダンサー衣装に身を包んだ少女。顔や体のいたるところに施された紋章のようなペイントが、一層妖しさを際立たせている。彼女がステージに立っただけで、会場のボルテージが段違いに跳ね上がった。
 彼女の名はハル。そのモデルもかくやという美貌とスタイルもさることながら、その澄んだ泉のような声と圧倒的な歌唱力で「水の歌姫」と呼ばれるボーカリスト。歌声は波となり、一瞬で観衆を虜にする。
 今日のステージも、いつも通り最後まで勢いが衰えることはなかった。

「ふぅーっ」
 バックステージに戻るなりライブ衣装を脱ぎ捨ててベンチに倒れこんだ。全力で歌って踊った後は、汗まみれの体を拭く気力もしばらくでない。
 こんな姿、ファンには見せられないな。
 横目で姿見を見ながらぼんやりと思う。半裸でぶっ倒れている姿など見られたら歌姫など名乗っていられまい。
「ヴァンは今頃上手くやってるのかな……」
 なんとか気合いを入れ直すと、タオルや着替えを置いてあるロッカーを開けた。
 タオルを取り出すよりも先に着信ありを知らせている携帯を手に取る。
「おっ!」
 期待通りの報せに、思わず汗だくの胸に携帯を抱きしめて小躍りした。
「やったねヴァン!」
 携帯と体をタオルで拭いながらせわしなく楽屋内を歩き回る。
「――待っててね、サラ」
 胸のペイントに手を当てて、ハルはぽつりと呟いた。


2.

 あの後、店に戻った桜花に、彰はどうしてもお礼がしたいと言って聞かず、近々、舞も呼んで晩餐会が開かれる運びとなった。
  そもそも彰は元々凄腕の料理人だったのだが、亜癒が失踪してからは喫茶店で軽食を出すにとどまっていた。これを機に再びレストランを開くのでそのリハビリ も兼ねてということらしい。とりあえずはということで彰はコーヒーを淹れてくれている。だから今店内のテーブルで亜癒と二人きりになっているのだった。
「ねぇ桜花」
「ん?」
 浅葱色の瞳をきらきらさせて亜癒が尋ねた。
「Duskってところに行くんでしょ?」
「ああ」
 公園で二人の前に現れた板堂という男。灰色の長髪に真っ赤な瞳を持ち、未知の力をその身に宿していた。明らかにあの男は何かを知っている。板堂はそう確信していた。
「わたしもいく!」
「……そうだよな」
 板堂と桜花の契約の証である握手に手を重ねてきた亜癒の行動は、どう考えてもそういう意図だということはわかっていた。
「彰さんにあんまり心配かけないようにね」
「そうだけど……でもあの板堂って人、気になる」
「どんな風に?」
「あの人、目と髪のいろがふつーじゃない。わたしとおなじ」
 それは桜花も気になっていたことだった。
 閉鎖された遊園地の中で、どのようにしてか7年間生き延びた亜癒は、髪と瞳が浅葱色に変わっていた。当然染められている様子はない。昔の写真を見る限り、ハーフの彰の影響か薄い栗色で、今のような浅葱色ではなかった。
 そしてあの板堂という男の赤い目と灰色の髪。そして桜花の持つ陰陽桜に似た常識外の力。そこには何か関係があるのではないかと考えずにはいられなかった。
「そうだな」
 もし板堂が危害を加える気なら桜花一人で守れるとも思えないが、むしろここに置いていったほうが危険なのも間違いはない。何よりも、彼女はちゃんと自分で真実と向き合おうとしている。それは何よりも尊重すべきだ。
 彰が戻ってきて、Duskの話題はそれでおしまいになった。
 彰は本当に別人のように元気になった。前までは実年齢より老けて見えたが、今はむしろずっと若く見える。人間表情一つでここまで変わるものなのかと思ったほどだ。
 彰の顔を見ていると、桜花も複雑なことはさておき素直に良かったと思えた。
「ごちそうさまでした」
 和やかなコーヒーブレイクはあっという間に過ぎ、桜花はきりのいいところで席を立った。
「今度は僕の腕によりをかけたフルコースを準備しておくから、舞ちゃんにもよろしくね」
「ええ。ではまた」

 外に出ると、赤い眼がこちらを見つめていた。
「お前は……」
 いやにフレンドリーに手を振ってきた。似合わない動作だ。
「やぁ、偶然だな」
「そんなわけあるか」
 灰色の髪をなびかせて、男は薄く微笑んだ。
「ここであったのも何かの縁。せっかくだから話でもしよう。飲むかい?」
「待ち伏せしといてよく言うよ。もらうけど」
 板堂が取り出したのは甘党宣言。人の好みまでよく調べているものだと素直に感心した。
「今度君には正式にDuskのメンバーと会ってもらう。その前にちょっと二人で話したいと思ってな」
「Dusk。あんたらの組織の名前だったか」
 確か公園で別れる前そんなことをちらっと言っていた。
「まぁそんなところだな。組織というと仰々しいが」
「そういうことなら行く。いきなり知らない人大勢と話すよりは俺も気が楽だし」
「それは良かった」
 灰色の男は不敵に微笑んだ。

「で、ラーメン屋か」
「男二人で話す場所と言ったらラーメン屋かビルの屋上が定番だろう」
「そういうものか……」
 亜癒と出会った海岸の近くにある小さなラーメン屋。道場を思わせる木製の看板に「杉山ラーメン」の名を冠している。
「来たことないな。海岸にはよく来るのに」
「味は保証する」
  古風な暖簾をくぐると、暇をしてたらしい店員がタバコをくわえていた。長い金髪を後ろで無造作に結んだ、青い目の中年男性。顔には無数の傷跡が刻まれ、無造作に生えた髭がワイルドさの中にもダンディズムを感じさせる。鍛え上げられた肉体も相まって、まるで退役軍人のようだ。純和風の店構えでこんな店主が出てくるとは思わなかった。
「いらっしゃい」
 洋画の吹き替えのような渋い声とともに、桜花たちに気づいた店長が立ち上がった。
 ――デカい!
 桜花はおもわず口を開けていた。
 座っていた時から大きいとは思ったが予想をはるかに上回るデカさだった。2メートルは確実に超えている。バスケ選手でもそうはいまい。
「誰かと思えばヴァンじゃねぇか。相変わらず陰気なツラしてやがるぜ」
「……おかげさまで」
「ジョーダンだ本気にすんな! アメちゃんやるから機嫌なおせな」
 手品のように鮮やかに飴を取り出す。よく見たらくわえているのも棒キャンディーだった。板堂はここではヴァンと呼ばれているらしい。常連なのか、実に気心が知れているやりとりだ。
「私はいいですから、それより彼を」
「ん〜?」
 店主の目がこちらを向く。高低差のない足場の上でこれだけ高くから見下ろされたのは初めての経験だ。板堂とは違う意味で威圧感が凄まじい。失礼のないように視線を合わせてから頭をさげる。
「なるほど近くで見るとなかなかいい目をしてやがるぜ。それにハンサムときてる。だがその程度なら世界では2番目だな」
「ちなみに一番は」
「この俺よ」
「納得です」
「聞いたかヴァン? これができる男の返しだぜ! お前も見習え」
 豪快に笑う店主。どことなくアメリカンである。
「それより、もしかしてあなたも」
「そう、Duskだ。君のことも知っているぜ、佐倉桜花くん」
 Duskのメンバー。タダモノではないと思ったが板堂が桜花を連れてきたのはそういうことか。
「正確にはメンバーというより協力者だがな。俺は情報屋。みんなからは店長って呼ばれてる」
「情報屋……」
「まぁ立ち話もなんだ。初回サービスで奢るぜ。適当に座ってくれ」
「ありがとうございます」
 桜花と板堂は椅子をコートにかけ、奥のテーブル席に座った。
「君の情報は店長が調べてくれた、といえばその凄さがわかるかな」
「……ああ」
 名前のみならず父親のことや陰陽桜のことまで見通されていたのだから当然だ。絶対に敵に回したくない。
「その情報収集能力も超能力か何かだったりするのか?」
「いや、店長は超能力者ではない。むしろそうであった方が納得できるくらいだがな」
「全くだよ」
 板堂は手袋を外しながら一呼吸置いていった。
「もう一度確認しておくが、本当にいいんだな?」
「どうした改まって」
 長い前髪の奥にある赤い目はただまっすぐに桜花を見据えていた。
「我々は君の素性を調べ上げ、施境亜癒を人質に取ったのだ。それだけではない。Duskに入れば危険な超常現象と関わっていくことになるだろう。それでも君はDuskに入ることに躊躇いはないのか?」
「まぁやったことだけ言えばそうなるか……」
 桜花は苦笑した。
「最初は正直かーなーり警戒してたけど、そんな必要も無さそうだから」
 板堂は少しだけ驚いたような顔をした。桜花は軽く咳払いをして、少し真面目なトーンで続ける。
「後悔はないよ。俺はむしろその危険な超常現象のために入ったんだ。それにこれから仲間になるなら仲良くしたほうがお互い気分もいいだろう。超能力に物を言わせて脅してくるわけでもなし、逆にこんな風に改まって挨拶されちゃ警戒するも何もって感じだ。意地になって警戒し続けても俺の胃が悪くなるだけで、そうなったら今から食べるラーメンが楽しめなくなるだけだし」
 桜花も最初は赤い目とただならぬ眼光に身構えていたが、この板堂という男は表面上余裕たっぷりに振舞ってはいてもどこか不器用なのだ。それが桜花の警戒心を解いたのだろう。
 一瞬の後、板堂はまた余裕ぶった薄ら笑いを口元に浮かべた。それはどこか苦笑のようでもあった。
「本当に心強いな。全く、参ったよ」
「亜癒ちゃんも会いたがってたぜ。悪いと思ってるなら今度スイパラでも連れてってあげるといいよ。その時は俺も行くけど」
「……それは楽しみだ」
「ラーメン二丁お待ち! まぁ食いねぇ。日本には同じ釜のメシを食った仲って言葉があんだろ」
 どんぶりが机に置かれた。非常に食欲をそそられる匂い。塩ラーメンだ。
「最初に言っておく。これはお代わり自由だ」
 そう言われては昼からほぼ何も食べてない桜花はもう辛抱たまらない。
「いただきます!」
 桜花はそういうところで遠慮する男ではない。空腹に任せて勢いよく麺をすすると、あっという間に一杯平らげてしまった。
「おかわりください!」
「おお良い食いっぷりだぜ。ヴァン、お前は真似して火傷すんなよ猫舌なんだから」
「わかってますって……」
 といいつつ最初の一口目を食べた時に小声で「熱っ」と言っていたのを桜花は聞き逃さなかった。
 ゆっくり良く噛んで食べるらしい板堂が一杯食べ終わる頃には桜花は大盛りを二回おかわりして完食していた。
「ごちそうさまでした。大変美味しかったです」
「やるじゃねぇか。おまえさんただのイケメンじゃねぇな」
「食べ物関係で遠慮はしない。それが俺の信条です」
「気に入ったぜ! またいつでも来いよ」
「もちろんです」
 桜花は店長と固い握手を交わした。店長の握力が強すぎて手が嫌な音を立てた気がしたがきっと気のせいだろう。
「ではごちそうさまでした店長」
 財布を取り出そうとした板堂を店長が手振りで押しとどめる。
「今日はお前もサービスだ。いいから新入りを送ってってやんな」
「ありがとうございます。それじゃあ佐倉。途中まで送るよ」
「ああ、うんありがとう」
「それではまた」
 店長に一礼してから店を出て行った板堂を、コートを着てから追いかける。
「佐倉」
 暖簾に頭が触れた時、後ろから呼び止められた。
「板堂を頼む」
 振り返ると、店長はすでに厨房の奥に引っ込んでいた。




3.

 板堂に車で家の近くまで送ってもらった後、近くのコンビニに寄って雑誌と甘党宣言を購入した。財布を出すときにまださっきの甘党宣言があることを思い出したが、たくさんあって困るものではないのでよしとする。
 コンビニを出ると、辺りが妙に白い。霧だ。
「またこのパターンか」
 まさかまた父が現れた時のようなことが起こっているのか。すぐに周りを確認したが、出てきたコンビニも信号もちゃんと見えている。今の所異常はないようだ。
 そう思った途端激しい光が桜花の目を襲った。 たまらず目を伏せる。
「佐倉桜花サンですね」
 エンジン音とともに女の声。 バイクのライト……それが霧に反射してこんなに眩しいのか。そしてこの女がおそらく霧の原因。今回は桜花にも多少心の余裕があった。
「ここであったが百年目です」
 バイクから降りてヘルメットを脱ぐと、長い金髪がさらりと流れた。
 桜花は思わず生唾をのんだ。
  スラリと長い手足にぴったりしたライダースーツで強調される大きな胸。雪のように白い肌。幼さと艶やかさを併せ持った挑発的な美貌。つり気味の大きな目の下にある泣きぼくろの横には星のペイントが施され、それが一層妖しい色気を引き立てている。その見事にくびれた腰に、何やらメカニカルなベルトが巻かれているのが少し気になった。
「ふふふ。驚いているようですね」
 思わず見惚れてしまっただけだったが、少女はそう言って得意げに胸を張った。
「何を隠そうこの私は」
「Duskのメンバーか」
「先に言わないでください!!」
 エキゾチックな外見の割に、ムキになる様子はまるで子犬のようだ。板堂と違って随分明るい人物らしい。
 少女は憮然とした表情で先を続けた。
「まぁいいです。わかってるなら話も早いというもの。でも余裕を浮かべていられるのも今のうちですよ!!」
 少女がメカニカルなバックルから鍵のようなものを取りはずし、天高く掲げた。
 その瞬間、あたりに立ちこめていた霧が水の渦となって少女の足元に絡みついた。
「やっぱりこの霧……!」
 桜花も少し気を引き締めてポケットの扇子に手を伸ばす。
「そう、私の名はハル。またの名を水の歌姫!」
 掲げた鍵が輝き出し、同調するようにハルの瞳も青く輝き出す。
「変身!」
 瞬間的にハルの服が弾け飛ぶと、 目視がかなわないほどの刹那、激しい紺碧の輝きとともに渦巻く水が裸身を包み、輝きが止んだ時にはまるで東洋の踊り子のような衣装をまとっていた。
「さぁ、覚悟!」
 持っていた鍵が二本に分かれ、碧き双剣となって少女の手に握られた。逆手に構えたその仕草はアサシンかくノ一のようだ。
 ただならぬ力の奔流に陰陽桜を構えて備える。
「……俺に何の用だ。Duskなら、来週会うはずだ」
「伝えたかったんです。佐倉紅郎の息子であるあなたに」
「父を知ってるのか?」
 動揺する桜花に、ハルは心から嬉しそうに微笑みかけた。
「私の名前はハル・フィッツジェラルド」
 桜花はハッと息を飲んだ。
 フィッツジェラルド。その名を知らぬはずはない。
 だとしたら彼女は--

 動き始めている。
 もう7年の静寂は破られている。
 桜花は、心臓が高鳴るのを感じていた。




「雪か」
 夕暮れ時の海岸で、板堂は静かに呟いた。
 誰もいない海に静かに雪が舞い降りる。
「これで君の計画もようやく本番って所かい?」
 いつの間にか板堂の背後にいた白衣の男が愉快そうに言った。
「いやすごかったよねえ陰陽桜の力は。きっと刀なんて力の片鱗に過ぎない。もっともっと試してみたいよ」
 板堂は振り返らずに答える。
「あの力は我らの計画になくてはならない。彼にはもっと適応してもらわなければ」
「たとえ彼が本当に人外になってしまってもかい?」
 まるでそれを望んでいるかのように白衣の男は半笑いで言った。
 板堂はわずかに顔を歪めた。
「そうすることで俺の願いが叶うなら……躊躇いはない」
「へえ? その割に随分仲良くしていたじゃないか」
「今はその方がいい。彼に今警戒心を持ってもらっては困る」
「まぁ、僕は何でもいいけど。他に面白いものも見られたしね」
「あなたの興味を引くものがあるとは」
「君の命令じゃなかったら、あの少女は開放したくなかったよ」
 言うだけ言うと男はその場を去った。
 板堂は無言で空を見上げ続ける。
 足下は徐々に白く染まりつつあった。
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プロフィール

Author:黒ザトー
小説『Dusk』ゆるりと更新中
並びにボイスドラマ企画『Dusk ep0 ゆめのせかい』
企画中


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