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Dusk閑話 ルキオアフター

暇つぶしに書いた短編



 神はいる。それは間違いない。
 そして神は信じるものを必ず救ってくださる。自分たちは無知で蒙昧なるあの集落の民を神の名の下に救う。ルキオはそう信じて行動していたつもりだった。
 だが連中の愚かさは想像を絶した。神を信じぬ愚かな民を救うには、目に見える奇跡を頼るしかない。
 そんなとき彼は女神に出会った。
 蒼き光を見にまとい、不可視の力で暴漢を退けて見せた美しき少女。その力はまごう事なき神の御業。
 彼女の力があれば、この国を変えることができる。やはり神は自分を見捨ててはいなかった。試練を乗り越えた彼に、神の使いを寄越してくださったのだ。彼はそう確信した。
 そしてルキオは海を越えて日本にまで来たのだ。
 だが……。

「やっとお目覚めか。また派手にやられたもんだな」

 今やルキオは囚われの身となっていた。
 悪鬼のような赤い目の男に邪悪なる雷によって全身を貫かれて意識を失ったルキオが目を覚ました時には、目の前に2メートルを超える大男がしゃがみこんでいた。
 知っている。この男はDuskの情報屋。
「あの板堂をあそこまで怒らせるとはな」
「貴様が、あの男の仲間……情報屋の”店長”か」
「おうとも」
 ルキオの前に大男がごとりと重量のある何かを置いた。
「これは……?」
「ラーメンだ。知らねぇのか? 女神様しか眼中ねぇってか」
 確かにルキオは言葉こそなんとか習得したもののジャパニーズ・カルチャーには明るくない。だが目の前のものがどうやら食物……それもジャパニーズ・ヌードルの一種であるラーメンらしいことはわかった。
「……箸の使い方は知っている」
 周囲を見渡してみると、どうやらここがレストランのようだとわかった。信じがたいが、目の前のプロボクサーのような体格の西洋人はラーメン・クックだと聞いている。見たところ四十過ぎの自分よりいくらか年上に見えるから、あるいは引退して料理人になったのかもしれない。
「まぁ食え。空腹でくたばられたんじゃ話にならねぇ」
 ルキオは警戒しつつも箸を取り、どんぶりの中身を一口すすった。
 美味い。
 料理の道には詳しくないが、一年や二年の修行でこれほどの料理を作り上げることはできないだろう。本当の本当にこの男はラーメン・クックであるようだった。
 しばらくの間、ルキオは夢中になってヌードルを啜っていた。
「ゴチソウサマ」
 日本では食後にこう挨拶するという習わしがあると聞く。目の前のクックに対する敬意を込めて、ルキオは自然とそう口にした。
「腹が減っては戦はできぬ。まぁてめぇにこれ以上戦をさせる気はないが」
「……私は諦めるわけにはいきません。我が祖国のため」
「祖国のため、か。新しく入ってきたヘンテコな宗教に入れ込んで、結果その故郷をめちゃくちゃにしちまったくせに、いっちょまえなこと言いやがる」
「夜明け前は最も暗い。真の平和は夜明けとともにやってくる!」
「真の平和のためには今までそこにあった平和は踏み躙るのも必要な犠牲ってハナシか」
 店長はライターとシガレットケースを取り出し火をつけようとして、ケースの中身がキャンディであることを思い出しライターを投げ捨ててキャンディを噛み砕いた。高級なジッポライターが硬質な音を立てて床を滑っていく。
「Duskなんて青臭い連中に手ぇ貸してやってるが俺は平和なんぞとは縁遠い人間だ。喧嘩上等、闘争本能をもって生まれた人間が闘争を禁じられてるなんてちゃんちゃらおかしいさ。だがてめぇはそれ以前に気にくわねえ。てめぇが正義だと信じて疑わない頭がおめでたい野郎はよ」
「なんとでも言うがいい。私は私のやり方で故郷の平和を勝ち取るまでのこと」
 あくまで強情なルキオを前にして、店長はため息をついた。
「そもそも女神だのなんだの言って、お前はハルを利用することしか考えてないじゃねぇか。考えないのか? ハルを敬おうとは」
「我が祖国へ連れ帰ってから全身全霊を持って崇め奉る。そのために多少の無礼はご理解頂くほかない。あの国こそが、女神の本当の居場所でもあるのだから」
「本当の居場所か。なら尚更それはここってことになるぜ」
「出身国の話ですか? なら――」
「いや違う」
 店長がルキオに何かを差し出した。
「わからせてやるよ、お前に。今はどうしようもなく、ここがハルの居場所なんだってことをな」



 薄暗い路地裏にぽっかりと口を開ける、地下への階段をルキオは胡乱な目で見ていた。
 店長が行けと言ったのはこの場所で間違いない。だが本当にこんな場所に女神がいるというのだろうか。
 そうだとしたら冒涜にほかならない。やはりこの国は女神のいるべき場所ではないのだ。
 憤然とルキオは陰気な地下の扉を開けた。
 一転。
 室内はきらびやかな内装。受付嬢が高級な印象のカウンターの向こうでルキオに頭を下げた。
 所定の金額とチケットを手渡し、飲み物と半券を受け取って更に奥の扉に入る。
 むわっとした熱気。物理的にだけではなくギラギラとした人の放つ熱気を感じる。そこにはすでに大勢の若者が集っていた。
 一体これからここで何が始まるのか。
 人知れず戦慄するルキオは受け取った飲み物を一口含む。甘い。メニューに書かれたものは知らない飲み物ばかりだったが、この半透明の飲み物は何かしらサイダーのような飲み物だったらしい。慣れない刺激に喉がひりつく。
 しばらく待っているとアナウンスとともに照明が絞られる。人ごみの向こう側にあるステージで、何かが始まるということなのだろう。ルキオは身構えた。だが、
「ぬぅっ!?」
 背後から凄まじい衝撃がルキオを揺さぶった。たたらを踏み、飲み物を少しこぼしてしまう。
 声を上げてしまったが、周囲には聞こえなかっただろう。なぜならルキオを揺さぶった衝撃が「爆音」だったからだ。
 信じられないのは周囲の人間が動揺していないどころかむしろ歓声を上げてこの状況を迎え入れていることだ。その反応からしてこのゴーモンめいた爆音こそ彼らが求めるものであり、チャメシ・インシデントなのだろう。一体何なのだこれは。
 ルキオは動揺を禁じ得なかった。
 そして爆音に誘発されたように高まっていく周囲の絶叫とともに、ステージ上が青くライトアップされ、きらびやかな衣装を身にまとった女性が颯爽と姿を現した。
「女神……!!」
 見間違えるはずもない。現れたのは女神ハルその人だった。女神は黒く長い棒の前に立つと、そこからひったくるように何かを手に持った。あれはマイクか。
 女神は大きく息を吸い込むと、マイクに向かって声を張り上げた。
「これは――!!?」
 劇的だった。
 天上の歌声が響き渡ると、それまで殺人的な雑音でしかなかったはずの爆音は女神の歌声をバックアップする伴奏へと意味合いを変えた。
 ライトアップで青く輝く彼女は紛れもなく女神。観衆は声を抑えながらもその熱気は高まる一方。
 ルキオは残る飲み物を全てズボンにこぼしてしまったが、それすらも意識の外。なぜならルキオは理解してしまったのだ。
 この場所こそが女神の居るべき場所。そう、

 ――サンクチュアリィなのだと。





「で、結局あいつは日本に残ることにしたんすか」
「ああ。すっかり歌姫ハルの虜だ。もう過激な手段に出ることはないだろう」
 ライブの後、ルキオは長い手紙を寄越した。
 自分が思い違いをしていた。この場所こそが女神の居るべき場所であり、些細な争いのために自国へ連れ帰ろうなどととんでもないことだった。どうか我々に、ここで女神を崇めることを許してくれないだろうか。
 そういった内容のことが、用紙数枚に渡って綴られていた。
「我々って……仲間ごと来る気っすか。自分の国ほったらかしっすか。まぁあいつらがいない方が平和になる気もしますが」
「それでもお前さんが嫌ならこんな提案断ってもいいんだぜ?」
 店長が手紙をぞんざいに振りながら言う。
「んー。正直いい気分はしないけど、別にいいですよ。あいつ嘘は言わなそうだし。いい歳して思考回路が純粋すぎるんでしょーね。応援してくれるっつーんなら嬉しいとは言いませんが勝手にしろって思います。それに」
 ハルは少し皮肉げに口を歪めた。
「坂本が仲間ってことの方がよっぽど気持ち悪いっすよ」

 そんなわけでその日以降、歌姫ハルのライブ会場には無駄に目立つ謎の異国人数人組が出没すると話題になったのだった。
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プロフィール

Author:黒ザトー
小説『Dusk』ゆるりと更新中
並びにボイスドラマ企画『Dusk ep0 ゆめのせかい』
企画中


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