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閑話2 特に何でもない日

Duskの若いメンバーたちが会話するだけの回
時系列的には「3.ハル」の後の話です



 ——それは赤かった。
 もともと赤いのではない。わざわざ赤く染め抜かれているのだ。
 佐倉桜花はゴクリと喉を鳴らした
 その手にはフォーク。
「では、いただきます」
「どうぞ」
 桜花は心を落ち着けるように目を閉じると、一瞬ののちにカッと目を見開き、フォークに巻き取ったそれを一息に口に入れた。
「!!」
 その瞬間広がるわざとらしいほどのケチャップ味。
 桜花はそれをゆっくりと味わう。
 マッシュルームとピーマン、ソーセージの薄切りとたまねぎ。そしてアルデンテとは程遠い、柔らかい麺。
 様々な食感がすべて大雑把なトマトケチャップ味と雑にかけられた粉チーズに塗りつぶされている。
 一言で言ってチープ。
 それがたまらなく素晴らしい。
 桜花は心の底から実感していた。
「——これこそ、ナポリタンだ」
 桜花の入団から約二ヶ月がたった四月のある日。
 桜花とハル、そして板堂はとある用事でDuskの本部に集まっていた。
 何を隠そうその用事とは目の前のナポリタンにある。
「ちょっと大げさじゃないか?」
「いや板堂。大げさじゃないよ。何も大げさじゃない」
 作った張本人板堂聖派は喜ぶより先に困惑していた。一方ハルは桜花の豹変を面白がっているようだった。
「わおヴァン、桜花さん本気で感動してますよ。よかったですね」
「ああ……まあ、うん」
 そんな二人の様子は歯牙にもかけず話を続ける。
「知っての通りナポリタンは日本生まれの洋食なんだ。純粋な洋食とは違う、言って見れば『日本人のイメージした洋食』なんだよ。いわば憧れの具現だ。そのロマンをお前の作ってくれたこのナポリタンは見事に体現している。思い出すよ、子供の頃親と一緒にデパートに行った時、レストランの店頭に飾ってあるガラスケースの中の食品サンプル……特にクリームソーダとナポリタンを見てワクワクしたものだった。今の子はわからないかもしれないな」
「確かに、私あんまりそういうの見たことありませんね。そもそもデパートってあんまり行かないですし」
「そっか、ハルはずっと日本にいなかったもんね。昔は親が『デパートに行く』って言えば子供達はそれだけでワクワクしたんだよ。今と違ってコンビニもスーパーもそんなにない時代で、日々の食品は駅前のドラッグストア、ちょっと大きめの買い物をする時はデパートって感じだったなうちは。小学校に入ったくらいで近くにスーパーができたからその前までの話になるけど。デパートっていうのはすごくてさ、今は高層ビルなんか山ほどあって霞むけどあの頃は一際でっかくていろんなお店が入ってて、おもちゃ屋もあってエレベーターなんか超おっきくてガラス張りで」
「それに、屋上の小さな遊園地」
「さすが板堂、わかってるな」
「同世代だからな。おもちゃ売り場を見た後、親が本当の買い物をする間子供達は屋上で遊んでいるんだ。100円で動くヒーローやパンダの乗り物とか、一周だけする列車とかな。今見るとほんの小さなコースを一周するだけに見えるが、あれが夢のように見えたものだ。それで当時はまだ今ほどあちこちにはなかった自動販売機で紙パックのリンゴジュースを買ってもらったりな。よく考えれば自動販売機って子どもだけでは買えないんだよな、高さ的に」
「そうそう」
 板堂は四分の一スイス人のクォーターだが生まれも育ちも日本であるのに対し、ハルは純粋な日本人だが海外暮らしが長い上17歳であることもありノスタルジートークから置いてけぼりになっていた。大人たちは忘れがちだがジェネレーションギャップというものはほんの数年から生まれるものだ。
「それで帰りにデパートのレストランでガラスケースの向こう側の存在だったナポリタンとクリームソーダを注文するんだ。あれが本当に嬉しくて」
「注文したはいいものの園児の胃では食べきれなかったりしたな。それも含めていい思い出だ」
「なるほどねー。亜癒ちゃんのお父さんのお店で高級料理食べ放題のハズの桜花さんがヴァンの得意料理ナポリタンですよーって言った瞬間異様に食いついたのはそういう理由があったんですね」
「ごめんねハル。なんかすごく懐かしくなっちゃって」
「『具は!? どんな具が入ってる!?』ってめっちゃ真剣に聞いてきたのでちょっとビビりましたけど」
「ほんとごめん……」
「具も及第点だったかな?」
「ああもちろん。マッシュルーム、ピーマン、玉ねぎ、ウィンナー。どれを取っても正しいナポリタンだよ。喫茶店メニューのど定番だな」
「そういえばヴァン、星乃珈琲店とかふらっと行くの好きですよね。確かあそこナポリタンありますよね」
「ああ、たまに食べたくなるんだ。佐倉がいうようなのとは違って具材はナスやベーコンを使っている本格的パスタ的性格が強いが、目玉焼きがのっていて運ばれてくるだけで幸せを感じる。比較的手軽にナポリタンを味わうことができるし、それにスフレパンケーキもかなり美味しい」
「喫茶店で食事っていうの自体にもなんとなく憧れるよね。最近はスタバとか人気だけど喫茶店ってまた違うじゃない?」
「映画や小説なんかでよくある『喫茶店で待ち合わせてコーヒーを飲んで重要な会話をする場面』とか、ああいう雰囲気に憧れを感じるのはあるな」
「あーそれは私もちょっとわかるかも。せっかく秘密結社つくったんだから次の会議は喫茶店にでもしてみます?」
 ノスタルジートークが一段落してハルも乗ってきた。
「気分転換には良いかもしれないな。あまり気を張っていても仕方がない」
「俺たちが気を張ってる時ってあんまり多くない気もするけどな」
「あーそれならいっそみんなで旅行とか行きましょうよ、温泉旅行とか!」
 ハルの口から温泉旅行と聞くと、桜花としては先日の風呂での一件を思い出してしまいあまり心穏やかではない。
「まあ行き先はともかく、ゴールデンウィークにでもどこか遠出をするのは良いかもしれないな……」
「たまには先生とか来れないっすかね?」
「おそらく無理だろう」
「先生って板堂と一緒にDuskを創った人だっけ」
 Dusk歓迎会の時に少しだけ話に上がったのを桜花は思い出す。
「ああ。ミラー先生は世界を飛び回る名医だからな。そもそも日本にいらっしゃる時間が少ない」
「会ってみたいなぁ」
「そのうち会えますよ。私も二回くらいしか会ったことないけど」
 まだDuskには謎が多いようだった。
「それよりヴァン!桜花さん! ここなんかどうですか?」
 ハルがケータイに表示させている画面には栃木の温泉宿の情報が表示されていた。
「行動がはやいな……」
「楽しいことは急げ! ですよ。亜癒ちゃんと四人で行きましょう!」
「まぁ楽しそうだけど……」
 この後ものの数日でハルは宿の予約まで済ませてしまい、ゴールデンウィークには本当に旅行に行くことになってしまった。
 そして桜花たちは旅行中もハルの行動力に驚かされることになるのだった―—
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Author:黒ザトー
小説『Dusk』ゆるりと更新中
並びにボイスドラマ企画『Dusk ep0 ゆめのせかい』
企画中


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